「安全は自分たちのため」と分かっていても、現場に漂う「やらされ感」を拭うのは容易ではありません。今回は、形式的な安全活動から卒業して、作業員一人ひとりが自分事として行動するための具体的なアプローチを解説します。

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なぜ現場に「やらされ感」が漂うのか?

多くの現場で「安全施工サイクル」が導入されていますが、それが単なるルーチンワークに陥っているケースは少なくありません。毎朝の朝礼、KY活動、巡回点検。これらが「決められたからやる」という義務感だけで動いている時、現場には強い「やらされ感」が漂います。

この原因の多くは、安全ルールが「上から下への一方通行」になっていることがあげられます。管理側が「守らせる側」、作業員が「守らされる側」という構造になってしまうと、作業員は自ら考えることを止め、指示待ちの姿勢になります。

指示されたことさえやっていれば責任を問われないという、人まかせの心理が働いてしまうのです。

また、形骸化したサイクルは現場のリアルな危険から目を逸らさせます。形だけのチェックリストを埋めることが目的となり、本当に注意すべき「変化」が見過ごされてしまいます。

この「形だけ」の空気が、現場全体のモチベーションを下げ、安全への感度を鈍らせているのです。

管理者が担うべきは「監視」ではなく「対話」

現場の主体性を引き出すために、管理者に求められるのは現場を監視することではなく、共に安全を作り上げることです。

これまでの指導が「ここがダメだ、直しなさい」という指摘に終始していなかったでしょうか。一方的なダメ出しは、相手の防衛本能を刺激し、心のシャッターを閉ざさせます。主体性を引き出す鍵は「問いかけ」にあります。

「本日の作業で、一番ヒヤッとしそうな場所はどこだと思うか?」

「この手順、もっと楽に、かつ安全にやる方法はないか?」

このように、現場のプロである作業員の知恵を借りる姿勢を見せることで、彼らの中に「自分たちが現場の安全高めている」という責任感が生まれます。

また、改善点を見つけるだけでなく、良い行動を具体的に褒めることも大切です。「あそこの養生、すごく丁寧で助かります」という一言が、安全行動を「自発的な習慣」へと変えていくのです。

サイクルが自走し始める!明日からできる仕組みづくり

意識を変えるきっかけを作ったら、次はそれを継続させるための「仕組み」が必要です。精神論に頼らず、自然と主体性が発揮されるような仕掛けを現場に組み込んでいきましょう。

具体的には、以下のようなステップで現場を巻き込んでいきます。

1.「当番制」による役割の付与
朝礼の司会や安全点検の同行者を協力会社の若手からベテランまで当番制にします。役割を与えることで、視点が「作業者」から「管理者」へと広がり、周囲の危険に気づく力が養われます。

2.「30秒提案」の推奨
KY活動の最後に、「もっとこうすれば安全・快適になる」といった小さな提案を出す時間を設けます。どんな些細なことでも採用し、即座に現場に反映させることで、「自分たちの声で現場が変わる」という成功体験が育まれます。

3.ビジュアルによる成果の共有
「〇〇さんの提案でここが改善されました」という事例を写真付きで掲示板などに貼り出します。具体的な成果が見えることは、次の安全行動への動機付けとなります。

4.「安全=効率」であることを浸透させる
安全対策は作業を止める面倒なものではなく、手戻りを防ぎ、結果として早く、安全に仕事を終わらせるための技術であることを、具体的な事例を通して伝え続けていきます。


これらの取り組みにおいて重要なのは、管理者が「現場の声を拾い上げ形にする」という姿勢を一貫して見せることです。自分の意見が尊重されていると感じたとき、人は初めて「やらされ仕事」から脱却し、自ら動くようになります。

監修者のまとめ

安全施工サイクルの形骸化という問題は、私が長年現場管理に携わってきた中で、最も繰り返し目にした課題のひとつです。「主体性」と「仕組み」の両輪を意識することが、この問題を解消する核心だと考えています。

かつて私が担当した中規模の新築工事現場で、こんなことがありました。毎朝のKY活動は形式的に行われていたものの、作業員たちの発言はいつも判で押したような同じ内容の繰り返しでした。「転落注意」「挟まれ注意」——正しいことを言っているのですが、その日の作業に即した具体性がまったくなかったのです。

そこで試みたのが、KY活動の前に班長を交えた「今日の変化点の共有」を1〜2分設けることでした。「昨日から足場の一部が変わった」「午後から資材搬入が重なる」など、その日ならではの情報を全員で確認してからKY活動に入るようにしたのです。すると作業員たちの発言が目に見えて変わり始めました。自分たちが把握している情報をベースに危険を考えるようになり、「この場所で〇〇をするときは特に気をつける」という具体的な声が出るようになりました。

安全施工サイクルとは、毎日決まった時間に決まったことをこなす「ルーティン」ではなく、その日その現場の状況を全員で共有し、全員で考えるための「場」です。管理者の役割は、その場を機能させるための問いを立て続けること。そうした姿勢が現場に伝わったとき、作業員たちは初めて「やらされ感」から解放され、自ら安全を作り出す存在へと変わっていきます。

監修者
大阪谷 彰

【監修者プロフィール】

大阪府出身。京都大学大学院(建築学専攻)修了後、大手ゼネコンに入社。建築現場の施工管理から設備設計まで幅広く従事し、現場の最前線で実務を積む。その後、環境ISOの取得支援や環境技術の開発・マネジメントなど、組織の安全・環境管理における多角的な業務を歴任。現場のリアルと高度な専門知識を併せ持つ安全衛生のスペシャリスト。

【保有資格】

一級建築士、技術士(総合技術監理、建設環境)