不安全行動とは、災害の直接原因となった作業員の故意の行動と定義されています。ヒューマンエラーとは、思い違いや勘違い等の故意でない人間の行動ミスと定義されています。両者の大きな違いは、故意の行為か故意でない行動かの意識の差です。
故意の行動は、行動規範や教育による安全意識の向上により防止が可能です。一方、故意でない行為は、間違いを起こした瞬間にミスを起こしていること自体を自覚しておらず、防止することは非常に困難であるといえます。
この記事では、不安全行動を起こさないための行動を項目別にリスト化しています。現場の安全ルールづくりの参考にご活用いただければ幸いです。
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手順遵守を形骸化させない仕組み作り
多くの現場でルールが守られない最大の理由は、ルールが「現場に合っていない」か「守るメリットが感じられない」ことにあります。単に「守らせる」という強制力だけでは、監視の目が届かない場所での不安全行動を抑止できません。
大切なのは、作業員自らが「この手順が最も安全で効率的だ」と納得できる仕組みを整えていくことです。
ルール遵守を実現するためには、現場の実態に即したルール整備と、守ることへの動機づけの両面からアプローチすることが重要です。以下に、現場で取り組みやすい具体的な実行項目を挙げます。
ルール遵守をするために有効な実行リスト
- 現場作業員を交えた作業手順書の定期的な見直しと更新
- なぜその手順が必要なのか、リスクの根拠を数値や事例で示すための教育
- 「無理な工期」や「人員不足」など、ルールを破らざるを得ない要因の特定と排除
- ルールを守っているメンバーを積極的に評価する表彰制度などの導入
上記の取り組みを継続的に実施することで、「ルールは守るもの」という意識が現場全体に根付いていきます。制度や手順書の整備だけでなく、現場の声を反映しながら運用し続けることが、形骸化を防ぐ最大の鍵となります。
危険を自分事にする!安全への意識づけ
「ここは危ない」と感じる感覚、すなわち危険感知能力には個人差があります。ベテランにとっては当たり前のリスクでも、経験の浅い作業員には見えていないことが多々あります。また、同じ作業を繰り返す中で「これまで大丈夫だったから」という慢心が生じ、危険感知能力が麻痺してしまうことも少なくありません。
危険を「自分ごと」として捉えるためには、日常的な訓練と具体的なイメージの共有が欠かせません。以下の実行リストを参考に、現場全体の危険感知能力を高めていきましょう。
危険感知能力を磨くために有効な実行リスト
- KY(危険予知)活動のマンネリ化を防ぐため、日替わりで現場リーダーを交代する
- 過去の災害事例を視覚資料(写真や動画)で共有し、具体的イメージを持たせる
- 「もしここで〇〇が起きたら?」という問いかけを日常的に行っていく
これらの活動を通じて、作業員一人ひとりが危険を「他人事」ではなく「自分事」として意識できるようになります。特にKY活動は形式化しやすいため、担当者が意識的に変化を加えながら継続することが大切です。
重大事故を回避!「声がけ」を習慣化するコツ
不安全な行動を見かけた際、咄嗟に「危ない!」「ちょっと待った!」と言える環境があるかどうかは、重大事故を防ぐ最後の砦です。しかし、上下関係や年齢差、現場の工期を優先する空気感があると、声を出すことに躊躇いが生まれてしまいます。この心理的ハードルを下げた現場を作ることこそが、安全衛生担当者の最も重要な役割だと言えます。
声がけが機能する現場をつくるためには、担当者が率先して働きかけ、「誰でも安全に意見を言える」雰囲気を醸成することが必要です。以下の項目を日常業務に取り入れてみてください。
声がけを現場の「当たり前」にするために有効な実行リスト
- 「安全のための作業停止・危険指摘は、何よりも優先される」という雰囲気づくり
- 現場巡視の際、担当者自らが積極的に作業員へ明るく声をかけてコミュニケーションを活性化する
- 「声がけで危険を止める」などの危険への姿勢を称える表彰制度の導入
声がけは、一度の指示で定着するものではありません。担当者が継続的に模範を示し、声をかけた行為そのものを評価する文化を積み重ねることで、現場の「当たり前」として根付いていきます。
事故の芽を摘む!不安全な状態と行動の排除
事故は「不安全な状態(物の不備)」と「不安全な行動(人のミス)」が重なった時に発生します。多くの担当者は設備などの「状態」に目を向けがちですが、実際には「行動」が原因の事故が8割以上を占めると言われています。
現場巡視では、物が片付いているかだけでなく、人の動きに潜むリスクを徹底的に観察する必要があります。
不安全な状態と行動の両方を取り除くためには、設備面の点検と並行して、人の状態や行動パターンにも目を向けた巡視が求められます。以下の実行リストを活用し、リスクの根絶を目指してください。
リスクを根絶するための巡視と対策の実行リスト
- 「急いでいる」「疲れている」といった作業員の心理・身体状況を察知するための日常的な観察
- 特定の個人に頼り切った作業工程(属人化)を解消
- 整理・整頓・清掃(3S)を徹底し、不安全な状態を視覚的に目立たせる
- 危険状態の指摘はその場で改善を要求し、改善を後回しにしない
これらの対策を組み合わせることで、「状態」と「行動」の両面からリスクを排除できます。巡視は単なる確認作業ではなく、現場の実態を把握し改善につなげるための重要なプロセスです。定期的な振り返りを行いながら、継続的に現場環境の改善を進めていきましょう。
監修者のまとめ
建築現場の安全管理に長年携わってきた中で、私が繰り返し実感してきたのは、「ルールを作ること」と「ルールが現場に生きること」の間には、大きな隔たりがあるという事実です。
かつて担当した大規模な建築工事の現場では、足場作業における安全帯の使用ルールが明確に定められているにもかかわらず、実際の巡視では着用が徹底されていない場面が散見されていました。
作業員に話を聞くと、「動きにくい」「時間がかかる」という声が多く、安全帯の着用が「作業の妨げ」として認識されてしまっていることがわかりました。そこで、より装着しやすい器具への変更を検討するとともに、過去の墜落災害事例を映像で共有する教育を実施しました。
「なぜ必要なのか」を自分の目で確認した作業員たちの意識は明らかに変わり、着用率は短期間で大幅に改善されました。
建築現場における不安全行動の防止は、ルールの整備だけでは完結しません。高所作業や重機との混在作業など、建築現場特有の危険が日常に潜む環境だからこそ、作業員一人ひとりがリスクを自分事として捉え、行動できる現場文化を育てることが不可欠です。管理者が現場に足を運び、作業員の声に耳を傾け続けることが、安全管理の本質であると考えます。

【監修者プロフィール】
大阪府出身。京都大学大学院(建築学専攻)修了後、大手ゼネコンに入社。建築現場の施工管理から設備設計まで幅広く従事し、現場の最前線で実務を積む。その後、環境ISOの取得支援や環境技術の開発・マネジメントなど、組織の安全・環境管理における多角的な業務を歴任。現場のリアルと高度な専門知識を併せ持つ安全衛生のスペシャリスト。
【保有資格】
一級建築士、技術士(総合技術監理、建設環境)
