監修者
大阪谷 彰

【監修者プロフィール】

京都大学大学院(建築学専攻)修了後、大手ゼネコンに入社。建築現場で実務を積んだ後、組織の安全・環境管理などを歴任。現場のリアルと高度な専門知識を併せ持つ安全衛生のスペシャリスト。

【保有資格】一級建築士、技術士(総合技術監理、建設環境)


「保護メガネを着けて」と何度言っても、気づけば額に上げたままで装着するそぶりもない・・・。そんな光景に頭を抱える担当者も多いはずです。

本記事では、飛来物災害の正体と、明日から現場で使える防止策をお伝えします。


▼現場の安全について、参考記事をご紹介。以下も是非ご覧ください。▼


飛来物災害はなぜ起きる?「一瞬」と「油断」の正体

「飛来・落下」は、労働災害の事故の型の一つで、毎年一定数発生している災害です。このうち「飛来」とは、作業中に物が勢いよく飛んできて人に当たることを指します。

研削といしの破片、はつり作業のコンクリート片、切断時の金属くず、張力のかかったワイヤーの跳ね返りなど、現場には飛来の危険があふれています。

厄介なのは、飛来物はとにかく速く、見てから避けることはほぼ不可能だという点です。小さな金属片でも目に入れば失明につながりかねません。労働安全衛生規則でも、切削くずなどが飛来するおそれのある機械には覆いや囲いを設け、作業者に保護具を使わせることが事業者に求められています。

ルールも保護具もあるのに、それでも事故が起きる背景には、以下のような心理が働いています。

  • 「数秒で終わるから」と保護具を省略してしまう
  • 保護メガネが曇る・汗で滑るなど、着けること自体が面倒
  • ベテランに「保護メガネは?」と言いづらい雰囲気
  • 何年もケガをしていないから大丈夫という油断と慣れ


つまり、飛来物災害は「知識不足」よりも「分かっているけど、やっていない」から起きることが少なくありません

明日からできる!飛来物を「出さない・届かせない・守る」3段構え

対策は保護具だけに頼らず、3つの段階で考えるのが基本です。

  1. 出さない(発生源の対策)
    研削といしは使用前に亀裂や欠けがないか点検し、覆い(カバー)を外さずに使います。といしの取替えや取替え時の試運転は、特別教育を修了した者が行うことも確認しましょう。工具の整備不良は、飛来物の発生要因のひとつです。

  2. 届かせない(遮る・離す)
    飛散防止の衝立やシートを設置し、作業場所の周囲に立入禁止の範囲を設けます。「作業者本人は保護具を着けていたのに、通りがかった人に破片が当たった」という事故は珍しくありません。

    周囲の人を守る視点が欠かせません。作業前のKY活動(危険予知活動)で「破片はどっちに飛ぶか」「その先に誰がいるか」を具体的に話し合っておくと、衝立の向きや立入禁止の範囲が決めやすくなります。

  3. 守る(保護具の着用)
    保護メガネ、防災面(フェイスシールド)、保護帽、厚手の作業服などを、作業内容に合わせて選びます。特に研削やはつりでは、保護メガネと防災面を組み合わせると顔全体を守れます。

ポイントは、1.出さない(発生源の対策)と2.届かせない(遮る・離す)の対策を先に進めることです。

現場ではつい「保護メガネさえ着けさせればいい」と考えがちですが、保護具は、あらゆる対策をすり抜けた飛来物から身を守る「最後の砦」です。発生源と飛散経路の対策が甘いままでは、どれだけ指導しても事故は防ぎきれません。


保護具が定着する現場の仕掛け

それでも保護具の着用は、最も手を焼くテーマです。「着けろ」と繰り返すだけでは、現場はなかなか変わりません。定着させるには、環境を整えることと、言いやすい現場の雰囲気づくりの両方が必要です。

  • 着け心地の良いものを選ぶ
    曇り止め加工のものや、メガネの上から掛けられるタイプなど、作業者の声を聞いてもっとも適した保護具をJIS規格適合品の中から選定する
  • すぐ手に取れる場所に置く
    グラインダーの横に保護メガネを掛けておくなど、「取りに行くのが面倒」をなくす
  • 管理者・職長から率先して着ける
    上長が着用しない現場では、若手も着用しなくなりがちです。
  • 声をかけるルールを決める
    「保護具の未着用などを発見したら立場に関係なく声をかける」と朝礼で宣言し、現場の中でルール化し浸透させる
  • ヒヤリハットを共有する
    「メガネに破片が当たったけどケガせず助かった」のような身近な実例を共有する

注意する側も「言ったら嫌な顔をされるかも」と悩むものです。だからこそ、個人の勇気に頼らず、声かけを当たり前にする仕組みを作ることが担当者の役割です。きちんと着けていた人を「いいね」と認める一言も、習慣化を後押しする大きな力になります。

監修者のまとめ

私が現場監督をしていた頃、今でも忘れられない出来事があります。鉄骨階段の補修工事で、若手がディスクグラインダーで鋼材を切断していたときのことです。

飛んだ切断くずが、近くを通りかかった別の職人の作業着に当たりました。幸いケガはありませんでしたが、切断していた若手は、保護メガネを額に上げたままでした。

私はその日から「着けなさい」と言うのをやめ、着けない理由を作業員一人ひとりに聞いて回りました。返ってきたのは「曇って見えない」「取りに行くのが面倒」という声でした。

そこで曇り止め付きの保護メガネに替え、グラインダーの横に専用のフックを設け、私自身が現場で必ず着けるようにしました。切断場所には衝立を置き、周囲の立入りも制限しました。数か月後には、朝礼で職人同士が「メガネは?」と声を掛け合う姿が見られるようになりました。

飛来物災害の防止は、精神論では成り立ちません。発生源を抑え、飛散を遮り、着けやすい環境と声をかけ合える空気を整える。その積み重ねがあってこそ、保護具は一瞬の油断から身を守る最後の砦として働くのだと、確信しています。