労働安全衛生法において、元請け企業(または特定元方事業者)が現場全体の安全を指揮する「統括管理」を行うことが義務付けられています。なぜなら、複数の会社が同じ場所で、それぞれ異なる目的を持って動く現場では、一社だけの努力では防ぎきれないリスクが数多く存在するからです。

統括管理組織図
厚生労働省「職場の安全サイト」より引用

例えば、ある会社が高所作業を行っているすぐ下で、別の会社が通路を整備しているような状況を想像してください。このとき、会社間のコミュニケーションが不足していれば、資材の落下による重大な事故が起こりかねません。このような「混在作業」によって生じるリスクを適切にコントロールし、現場で働くすべての人々の安全を担保することこそが、統括管理体制を構築する最大の目的です。


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なぜ「統括管理」が必要なのか?混在作業に潜むリスク

混在作業が常態化している現場では、作業環境が常に変化し、予測不可能な危険が日々発生します。それぞれの会社が自社のルールのみに従って動いてしまうと、他社の作業手順との食い違いが発生し、それが重大な労働災害へと直結してしまいます。

統括管理が機能していない現場で見られるリスクとして以下のようなものがあります。

1. 連絡不足による接触事故
重機を使用する会社と、その付近で手作業を行う会社の連絡が不十分で、死角に入った作業員が巻き込まれる事故になる。

2. 設備共用によるトラブル
足場やクレーンなどの設備を複数の会社で共用する際、点検責任が曖昧になり、不具合があっても見逃されてしまう。

3. 緊急時の対応遅延
事故が発生した際、どの会社の誰が責任を持って避難誘導や救急要請を行うべきかが決まっておらず、対処が遅れる。

これらのリスクを排除するためには、元請けが全体を俯瞰し、各社の作業計画を事前に把握・調整する体制が不可欠です。統括管理とは、単なる監視ではなく、現場全体の情報の流れをスムーズにし、各作業員が安心して自分の仕事に集中できる環境を整える重要な役割を担っています。


安全衛生責任者が果たすべき4つの役割

作業所における統括管理体制
出典:Asahinet「労働安全衛生法」より引用

統括管理体制において、現場の実務レベルで最も重要なキーマンとなるのが「安全衛生責任者」です。労働安全衛生法第16条では、関係請負人(下請け企業など)は安全衛生責任者を選任し、元請けとのパイプ役を務めさせることが定められています。その役割は多岐にわたりますが、大きく分けると以下の4つの責務に集約されます。


元方安全衛生管理者との連絡・調整

元請けから示される安全方針や指示を確実に受け取り、自社の作業員へ展開するとともに、自社の作業状況を元請けへ正確にフィードバックする役割です。


1. 元⽅安全衛⽣管理者との連絡・調整
元請けから⽰される安全⽅針や指⽰を確実に受け取り、⾃社の作業員へ展開するとともに、⾃社の作業状況を元請けへ正確にフィードバックする役割です。。


2. 協議組織(安全連絡会議など)への参加
現場で定期的に開催される協議会に出席し、他社との作業調整や、現場で見つかったヒヤリハット情報の共有を行います。


3. 自社作業員の安全確保と指示
元請けとの調整結果に基づき、自社の作業員に対して具体的な安全作業の手順や禁止事項を徹底させます。


4. 関連設備や環境の点検・報告
自社が使用する設備や保護具、作業場所の安全状態を日々点検し、異常があれば速やかに元請けへ報告し、改善を促します。

安全衛生責任者は、法律や元請けの厳しい要求を、現場の作業員が守れる現実的なルールへと変換し、繰り返し伝えていく姿勢が求められます。


強い安全管理体制を構築する運用

多くの現場で課題となるのが、安全管理が「形だけ」になってしまうことです。安全連絡会議が単なる出欠確認の場になり、作成された安全計画書が現場のロッカーに眠っているようでは、本当の意味で安全を守ることはできません。体制を実効性のあるものにするためには、積極的に運用を改善していくことが推奨されます。


体制を活性化させるための5ステップ

  1. 責任者の権限を明確にする
    安全衛生責任者に対し、危険を感じた際には「作業を一時中断させる権限」を与えていることを、全社的に周知徹底する。

  2. コミュニケーションのデジタル化
    チャットツールなどを活用し、紙の書類だけでなくリアルタイムで現場の危険箇所を作業員全体に写真共有などできる仕組みを構築。

  3. 対話型巡視の実施
    巡視の際、一方的な注意ではなく「最近、作業でやりにくい場所はないか?」といった問いかけを行い、現場の意見を吸い上げ反映させる。

  4. フィードバックの徹底
    現場から上がってきた要望や改善提案に対し、元請けが「どう対応したか」を必ず報告し、現場から意見を出す意味を実感してもらう。

  5. 教育の継続実施
    責任者や職長を対象とした定期的な勉強会を行い、最新の事故事例や法改正、メンタルヘルス対策などの知識をアップデートし続ける。


強い体制とは、ルールが厳しい組織ではなく、誰もが「安全のために声を上げても良いのだ」と確信している組織のことです。管理者が現場の声を真摯に受け止める姿勢を見せることで、現場一人ひとりの安全意識は確実に高まります。


記事監修者のまとめ

統括管理体制の構築において、私が長年現場で実感してきたのは、「責任の所在を明確にすること」と「情報を現場全員で共有すること」の二点が、体制の実効性を左右するという事実です。

かつて、複数の下請け会社が混在する大規模な改修工事の現場で、安全連絡会議が毎週開催されているにもかかわらず、ヒヤリハット事例がほとんど報告されない状況に直面したことがありました。

調べてみると、各社の安全衛生責任者が「報告すると自社の評価が下がる」と感じて情報を抑制していたことが原因でした。そこで、ヒヤリハットの報告件数を評価の指標とし、報告した会社を積極的に称賛する仕組みへと改めました。すると数ヶ月のうちに情報共有が活発化し、未然に防げた事故が格段に増えました。

統括管理体制とは、紙の上の組織図ではありません。現場に関わるすべての人が「自分の声が安全につながっている」と実感できてこそ、はじめて機能するものです。体制の構築と同時に、その運用を育て続ける意識を持つことが、真の安全管理の要諦であると考えます。

監修者
大阪谷 彰

【監修者プロフィール】

大阪府出身。京都大学大学院(建築学専攻)修了後、大手ゼネコンに入社。建築現場の施工管理から設備設計まで幅広く従事し、現場の最前線で実務を積む。その後、環境ISOの取得支援や環境技術の開発・マネジメントなど、組織の安全・環境管理における多角的な業務を歴任。現場のリアルと高度な専門知識を併せ持つ安全衛生のスペシャリスト。

【保有資格】

一級建築士、技術士(総合技術監理、建設環境)