安全衛生法では、事業者に対してさまざまな義務を課しています。これらを履行しない事業者には、罰則が適用される可能性があります。

労働災害の防止措置を怠った場合

事業者は労働災害防止措置を義務付けられています。これらを怠った場合には、たとえ労働災害が起きていない場合においても、刑事責任を課せられることがあります。なお、安全衛生法で規定された事項について違反があった場合には、以下のようなものが規定されています。

3年以下の懲役または300万円以下の罰金

■重度の健康障害を生ずる化学物質(黄りんマッチ、ベンジジンなど)を製造、輸入、譲渡、提供、使用した場合

1年以下の懲役または100万円以下の罰金

■特定機械等(ボイラー、クレーンなど)の製造許可を受けていない場合

■特定機械等の個別検定、形式検定を受けていない場合

■有害物質(ジクロルベンジジンなど)の製造許可を受けていない場合

■秘密保持義務の規定に違反した場合 など

6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金

■危険又は健康障害を防止するために事業者が講ずべき措置を実施しなかった場合

■特定機械等の製造時・輸入等の検査を受けなかった場合

■特定教育を実施しなかった場合 など

50万円以下の罰金

■安全管理者、衛生管理者、産業医などを選任しなかった場合

■雇い入れ時の教育を実施しなかった場合

■健康診断を実施しなかった場合 など

尚、安全衛生法には「両罰規定」も規定されており、違反行為者を罰則の対象とするだけでなく、企業活動に伴う違反活動の防止のために、法人や事業者も罰することを可能とすることを目的として両罰規定が制定されています。

安全配慮義務違反とは

労働契約法(第5条)では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」として、使用者の安全配慮義務を定めています。

安全配慮義務とは、使用者が労働者に対して負う労働契約上の義務であり、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し、または使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命および身体等を危険から保障するよう配慮すべき義務」とされています。

もし、事業者が安全衛生法に基づく労働災害防止措置義務を果たしていたとしても、安全配慮義務を完全に履行したことになるとは限りません。

なぜなら安全衛生法は、最低基準を定めた法であるため、違反とはならなくても、労働者への安全配慮義務違反として、法的責任を問われる可能性があるのです。

特に最近の傾向として、安全配慮義務違反による損害賠償責任を認める裁判事例が増加しており、中には高額な損害賠償事件も見られます。

事業者は、リスクマネジメントの観点からも、法で定められている規定項目を守るだけにとどまらず、労働災害を防止するための措置を可能な限り講じ、安全配慮に取り組む姿勢が求められています。