高齢者とは何歳からを指すのでしょうか? WHOの定義では、65歳以上の人を言います。現場でのはっきりとした定義はありませんが、あるアンケートで「何歳以上の人が高齢者だと思うか」と質問したところ、一番多かったのは65歳以上でした。

建設業等の技能労働者の年齢構成は、45際以上が全体の過半数を締めています。そのうちの過半数が55歳以上となっています。

今後順次引退をしていく状況の中、技術の伝承が危ぶまれるだけでなく、従事する技能者の高齢化に伴う労働災害が深刻な問題となっています。

▼現場の安全について、参考記事をご紹介。以下も是非ご覧ください。



経験が仇になる?身体機能の低下と「過信」が引き起こす災害リスク

現場における高齢作業者の事故を分析すると、そこには若手層とは明らかに異なるメカニズムが存在します。最も警戒すべきは、本人の頭の中にある「かつての自分」のイメージと、実際の身体能力の間に生じる「ギャップ」です。

長年現場を支えてきたベテランほど、自分の技術や体力に自信を持っています。しかし、加齢による筋力やバランス能力の低下は避けられず、若ければ何でもない数センチ程度の段差や、少し足場が悪い場所での作業が、予期せぬ転倒へと繋がります。

本人にとっては「いつも通り」の動作であっても、反応速度が数ミリ秒遅れるだけで、回避できたはずの危険を避けられなくなるのが現実です。

また、視力や聴力の低下といった感覚機能の変化も無視できません。建設重機などのエンジン音が聞こえにくくなったり、薄暗い場所での足元の視認性が落ちたりすることで、ヒヤリハットの発生率は格段に高まります。これらの変化は非常に緩やかに進むため、本人が無自覚であるケースが多く、気づいたときには危険な状態であることも少なくありません。

現場責任者が注意するべき点

  • 朝礼後のパトロール時に、歩行のふらつきや足の上がり方をさりげなく観察する。
  • 「ベテランだから大丈夫」という現場全体の空気感を、安全教育を通じて是正する。
  • 作業環境の照度アップや、警告音の周波数の見直しなど、感覚機能の低下を補う対策を講じる。
  • ヒヤリハット報告を収集する際、高齢者に特化した「ヒヤリ」の原因を抽出・共有する

同じ「転倒・墜落」でも重大災害に直結する

高齢者の被災が現場にとって極めて深刻な問題となる理由は、その「重症化率」の高さにあります。厚生労働省の統計を見ても、同じ「転落・転倒」であっても、若手なら打撲や捻挫で済むケースが、高齢者の場合は骨折や長期の入院、さらには死亡災害へと直結する傾向があります。

一度のケガがきっかけで寝たきりになったり、復職が困難になったりすることは、本人にとっても、貴重な技術者を失う企業にとっても大きな損失です。さらに、休業日数が長引くことで、労働災害としての評価も重くなり、現場の士気や会社の社会的信用にも影響を及ぼしかねません。

また、作業そのものに起因しない「健康上の問題」にも最大限の注意が必要です。高血圧や心疾患、脳血管疾患などの持病を抱えながら作業を行っている場合、猛暑下の作業や急激な温度変化が引き金となり、作業中に意識を失うといった事態を招きかねません。

現場責任者が注意するべき点

  • 転倒防止のため、現場内の通路から段差を徹底的に排除するか、スロープを設置する。
  • 被災時の重症化を防ぐため、サポーターの着用や、衝撃吸収性の高い保護具の導入を検討する。
  • 熱中症対策においては、高齢者の「喉の渇きを感じにくい」特性を考慮し、時間決めの水分補給を義務付ける。
  • 朝礼時の健康チェックを習慣化し、顔色の変化を見逃さない体制を作る。

高齢者作業者が安全に活躍できる現場づくり

安全衛生担当者が果たすべき最大の役割は、高齢者を「リスク」として排除することではなく、彼らが持つ「知恵」を活かしながら安全に働ける「環境」を構築することにあります。

まず重要なのは、コミュニケーションの取り方です。年上のベテランに対して「危ないからやめてください」と頭ごなしに注意することは、彼らのプライドを傷つけ、逆効果になる場合があります。

「長く現場を支えてほしいからこそ、安全に配慮してほしい」という敬意をベースにした伝え方が、行動変容を促す鍵となります。

次に、設備面の改善です。これは「エイジフレンドリー(高齢者に優しい)な職場づくり」と呼ばれ、結果的に若手や未経験者にとっても働きやすい環境を生み出します。階段への手すり設置、昇降設備の自動化、注意喚起看板の大型化など、身体的・視覚的な負担を軽減する工夫を積み重ねるこによって現場全体の安全レベルを底上げします。

現場責任者が注意するべき点

  • ベテランの知識を後進に伝える「安全アドバイザー」のような役割を正式に依頼し、安全意識を高める。
  • 現場内の掲示物は、大きな文字とコントラストの強い配色を使い、一目で危険が伝わるように工夫する。
  • 定期的な個人面談を実施し、プライバシーに配慮しながら通院状況や服用している薬の影響を確認する。

3. まとめ

現場の高齢化は避けられない状況となっています。ただし、高齢化=リスクではなく担当者の「関わり方」次第でプラスの方向へと変えることが可能です。

身体特性に合わせた設備改善と、経験豊富な作業者へのプライドを尊重した対話を通じて、ベテランがその経験を安全に発揮できる現場を築きましょう。担当者の細やかな配慮こそが、大切な命を守る現場への重要なカギとなります。